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東京高等裁判所 昭和58年(行ス)20号 決定 1983年9月30日

抗告人 栃木県

相手方 西房美 外四名

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙「抗告の趣旨」及び「抗告の理由」記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

1(一)  民事訴訟法六四条所定の補助参加制度は、他人間に係属する訴訟の結果即ち本案判決の主文における訴訟物自体についての判断に関し実体法上の利害を有する第三者が、当該訴訟に参加して当事者の一方を補助して訴訟を追行し、これを勝訴させることにより右第三者の法律上の利益を擁護するとともに、一定の限度で判決の効力いわゆる参加的効力を補助参加人に及ぼすことにより、補助参加人を含めて当該民事紛争の包括的な解決を図る趣旨のものである。したがつて補助参加の申出は、当該訴訟の当事者のいずれを被参加人とするかを特定してなされることを要するとともに、補助参加の利益の有無も、参加申立人において被参加人とした者が当該訴訟において勝訴或いは敗訴の判決を受けることにより、参加申立人が法律上の権利関係ないし地位にいかなる影響を被ることになるかという観点から判断することを要するものである。

ところで、民訴法六四条にいう「訴訟ノ結果ニツキ利害関係ヲ有スル第三者」とは、当該訴訟の結果即ち本案判決の主文における訴訟物たる権利ないし法律関係の存否自体に関する判断について法律上の利害関係を有する者をいい、右にいう法律上の利害関係は、本案判決の主文における当該訴訟物自体についての判断が参加人の私法上又は公法上の権利関係ないし法律上の地位に影響を及ぼす場合であることを要するものであるところ、前判示の補助参加制度の趣旨に鑑みると、補助参加が許されるのは、参加申立人と被参加人とが当該訴訟の本案判決の主文に示される訴訟物についての判断との関係において、実体法上利害を共通にする場合に限られるものというべきである。

(二)  ところで、地方自治法二四二条の二第一項四号所定の住民訴訟(いわゆる代位による損害賠償等請求訴訟、以下「代位請求訴訟」という。)は、同法二四二条一項所定の普通地方公共団体の執行機関又は職員等による同項所定の一定の財務会計の違法、不当な行為又は怠る事実によつて普通地方公共団体が被り又は被るおそれのある損害の回復又は予防を目的とするものであり、その目的のために普通地方公共団体が、当該職員又は当該違法不当な行為若しくは怠る事実に係る相手方に対し、実体法上同法二四二条の二第一項四号所定の請求権を有するにもかかわらず、これを積極的に行使しようとしない場合に、住民が普通地方公共団体ひいては住民全体のために本来の請求権の帰属主体である当該普通地方公共団体に代位し右請求権に基づいて提起するものであるから、代位請求訴訟のうち損害賠償請求訴訟の訴訟物は、普通地方公共団体が有する当該職員個人に対する損害賠償請求権の存否であるというべきである。

これを本件についてみるに、本件記録によると、原告ら(相手方ら)の本訴請求は、栃木県知事である被告が宗教法人靖国神社に対し、昭和五六年四月二一日及び同年一〇月一七日に例大祭玉串料として各金一万円、同月一二日にみたま祭供花料等として金一万七〇〇〇円合計金三万七〇〇〇円を、いずれも抗告人(栃木県)の公金から支出したが、右各支出は憲法及び地方自治法の規定に反する違憲違法なものである旨主張して、抗告人の住民である原告らが、右損害賠償請求権の本来の帰属主体の抗告人に代位してこれを行使するために本件訴訟を提起追行しているものであるから、本件訴訟において被告である県知事個人が敗訴した場合には、判決主文によつて抗告人が県知事個人に対して私法上の損害賠償債権を有する旨の抗告人にとつて利益な判断がなされるだけのことであり、逆に、被告が勝訴した場合には、判決主文によつて抗告人が知事個人に対して私法上の右損害賠償債権を有しない旨の抗告人にとつて不利益な判断がなされることになるのである。したがつて、本件訴訟の訴訟物である損害賠償請求権の存否に関する本案判決の主文における判断について、抗告人は原告らとは実体法上の利害を共通にし対立する関係にはなく、これに反して、被告とは実体法上の利害が相反し対立する関係にあることは明らかであるから、抗告人には被告の県知事個人をして敗訴の事態を避けるためないしは勝訴させるため、本件訴訟において被告に補助参加する利益は認められないものというべきである。

2(一)  なお、抗告人は、本件訴訟において被告である県知事個人が敗訴した場合、抗告人において、会計事務処理上の是正措置を講ずべき義務が生ずることを理由に、補助参加の利益がある旨主張するところ、確かに、本件訴訟において被告が敗訴した場合には、抗告人は、会計事務処理上すでに支出ずみとされた当該支出金の返還を受けることになり地方自治法二〇八条所定の会計年度独立の原則に反する結果となり、かつ、右支出金の返納を出納閉鎖後の収入として、収入手続の例によりこれを現年度の歳入として当該支出に係る経費に戻入しなければならなくなる(地方自治法施行令一五九条、一六〇条、一五四条)などすでに執行ずみの関係予算、決算等の会計処理上の是正措置を講ずることを要することになるが、これは、右判決に付随して生ずる会計事務処理上の善後策としてのいわば事後処理手続の問題に過ぎないものであるうえ、右会計事務処理上の是正措置を講ずべき義務が生ずることは、抗告人にとつてはむしろ利益でこそあれ、何ら不利益ではないから、右主張のような理由をもつて、抗告人が、被告敗訴の場合には、法律上の義務を負担する関係にあるものとして、被告である県知事個人に参加する利益を基礎づけることはできないものというべきである。抗告人の右主張は採用できない。

(二)  また、抗告人は、本件訴訟において被告である県知事個人が敗訴した場合、抗告人において、地方自治法二四二条の二第七項所定の弁護士報酬支払義務が生ずることを理由に、補助参加の利益がある旨主張するところ、地方自治法二四二条の二第七項によれば、住民が同条一項四号所定の代位請求訴訟を提起して勝訴した場合には、当該住民は、地方公共団体に対して相当額の弁護士報酬の支払いを請求することができるものとされており、右の規定は、地方公共団体の住民が当該地方公共団体のためにその財産上の損害を回復するための訴訟を提起して勝訴した場合に、いわばその見返りとしてその損害回復のための訴訟の追行に要した弁護士報酬のうちの相当の額を、当該地方公共団体に負担させることとした規定と解されるから、右の場合に当該地方公共団体が弁護士報酬支払義務を負担することとなるのは、当該地方公共団体の職員に対する損害賠償請求権等の債権(積極財産)の存在等が判決によつて肯認されたことに伴ういわば付随的な効果というべきものであつて、その意味において、右の地方公共団体の弁護士報酬支払義務は、当該地方公共団体の損害賠償請求権等の肯認という積極財産の存在等に関する肯定的判断と不可分一体的に評価されるべきものと解するを相当とする。したがつて、同法二四二条の二第一項四号所定の代位による損害賠償請求訴訟において、原告たる住民が勝訴することによつて当該地方公共団体の被る法律的な影響は、相当額の弁護士報酬支払義務という付随的な義務(不利益)こそ伴うものの、損害賠償請求権という債権の存在を肯認されるという、それ自体としては当該地方公共団体にとつて利益と評価する以外にない影響に尽きるものと解されるから、この場合の弁護士報酬支払義務という債務の負担という点を、右の損害賠償請求権という債権の存在の肯認という点とは独立した別個の不利益ととらえて、この不利益を理由に、右の代位による損害賠償請求訴訟において、当該地方公共団体(抗告人)が被告たる職員(県知事個人)を補助するために右の訴訟に参加することを認めることは、相当ではないものというべきである。したがつて抗告人の右主張は採用できない。   (三) さらに、抗告人は、本件訴訟において被告である県知事個人が敗訴した場合、抗告人において、行政事件訴訟法四三条三項(同法四一条一項、三三条一項)により公法人としての権利能力が違法に制限されることを理由に、補助参加の利益がある旨主張するところ、行政事件訴訟法四三条三項(同法四一条一項)が準用する同法三三条一項は、行政庁又は行政主体が訴訟当事者(被告)である行政事件訴訟において、被告敗訴の判決があつた場合、右判決の実効性を担保するため、特に右敗訴判決における当該処分又は裁決の違法性、有効性についての判断が、当該事件について当事者たる行政庁その他関係行政庁を拘束する旨を定めたものと解されるところ、本件訴訟は、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づいて、住民である原告らが県知事個人を被告として、前記靖国神社例大祭玉串料等の支出行為の違憲、違法性を主張し損害賠償請求をしているものであつて、県知事が行政庁ないし行政主体として訴訟当事者となつているものではないから、抗告人は、行政事件訴訟法三三条一項の準用の結果として本件訴訟の判決の拘束力が及ぶ関係にはないものというべきである。したがつて、本件について行政事件訴訟法三三条一項の準用を前提とする抗告人の右主張は、すでにこの点において失当である。しかも、仮に、本件訴訟において被告敗訴即ち本件例大祭玉串料等の支出が憲法及び地方自治法に違反するものとして、抗告人の被告に対する損害賠償請求権を肯認する旨の判決が確定した場合には、当該地方公共団体たる抗告人は、憲法及び地方自治法等法令に則り適正妥当な地方自治行政を執行することが期待され爾後右判決の趣旨に副う地方行政事務処理をすることになるのはむしろ当然のことであつて、その主張のような理由をもつて、被告敗訴の場合には、抗告人が、公法人として権利能力を違法に制限される関係にあるものとして、被告である県知事個人に参加する利益を肯認することはできないものというべきである。したがつて、抗告人の右主張は採用できない。

三  よつて、抗告人の被告のためにする本件補助参加申立ては、被告を被参加人とする点で不適法であるから、これを却下すべきものというべきであり、これと同旨の原決定は正当であつて、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、抗告費用の負担について行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 中島恒 塩谷雄 涌井紀夫)

(別紙)

抗告の趣旨

原決定を取り消す。

抗告人が、原告西房美ほか四名、被告船田譲間の宇都宮地方裁判所昭和五七年(行ウ)第四号損害賠償請求住民訴訟事件について、被告を補助するため参加することを許可する。

本件補助参加申立に対する異議申立によつて生じた費用は相手方の負担とする。

との裁判を求める。

抗告の理由

一、原決定は、抗告人(補助参加申立人)は民事訴訟法六四条にいう訴訟の結果につき利害関係を有するものとはいえないとするが、その理由は明らかでなく、その結論は不当である。以下、詳論する。

二、補助参加の利益についての判断(原決定理由二前段)について

1、補助参加の利益として、「本件訴訟において被告が敗訴すると、申立人においては、既に適法妥当に支出して、もはや申立人に帰属すべきでないと考える金員の返還を余儀なくされ、かつ、執行済みの関係予算決算等会計処理の是正をしなければならなくなる」旨の抗告人の主張に対し、原決定は「確かに、被告が本件訴訟に敗訴すれば、申立人に帰属すべきでないと考える金員の返還を受けざるを得なくなり、ひいては、本件公金支出の関係する財務会計処理の見直しをも要求されることになるものの、これらはあくまで事実上の主観的不利益にすぎず、これによつて申立人が法律上の不利益を被るものというのは相当でない」とする。

このように、原決定は単に「事実上の主観的不利益にすぎない」から「法律上の不利益を被るものではない」と同義反復の結論を述べたにすぎず、法律上の不利益と事実上の主観的不利益との区別の基準も明らかにしないばかりか、いかなる理由によつて、事実上の主観的不利益にすぎないとしたのか、その理由は全く示されていない。

2、ところで、民訴法第六四条にいう「訴訟の結果に付利害関係を有する」とは、一般に、私法上または公法上の権利関係に法律上の影響を受けるという法律的な利害関係を有するものでなければならないとされ(大決昭和七・二・一二民集一一巻一一九頁、同昭和八・九・九民集一二巻二二九四頁)、あるいは、当該訴訟の訴訟物たる権利関係の存否が参加人の私法上または公法上の権利関係乃至地位に何らかの法律上の影響をおよぼす場合を指すとされる(仙台高秋田支判昭和四六・九・八高裁民集二四巻三号三一八頁)。因みに、補助参加の中でも最もポピユーラーな例である、当事者一方の敗訴によつて第三者が求償又は損害賠償義務を負う関係にあるという場合でも、第三者の受ける不利益は、判決理由中の判断を抜きにしては考えられない筈であるから、果して右の一般的な要件基準がどこまで妥当性を有するかは疑問であるのみならず、補助参加の機能領域が広汎に及び、利害関係にも種々の態様を認めざるを得ない現時点においては、右の要件基準で画一的に割切つてしまうことは、とうてい実際上の要請に耐えられない。利害関係が法律上か事実上かという区別とても同様である。そこで判例においては、かなり弾力的に補助参加を認める傾向にあることは周知の事実である(三省堂・判例コンメンタール・民訴法I二〇六頁)。殊に行政訴訟にあつては、行政事件訴訟法第二三条により「必要であると認めるとき」は広く行政庁を参加させることができるようになつている。これは行政事件においては、利害関係者が多く、本件でもそうであるように、問題となつている法律関係(地方公共団体が宗教法人に玉串料を支出することが許されるかどうか)の実質的当事者が訴訟上の当事者になつていない場合が多いので、法律関係の実質的当事者をできるだけ多く訴訟に参加させて、訴訟資料を豊富にし、適正な審理裁判を実現しようという趣旨に出たものであり、補助参加の許否に関する前記判例の傾向と軌を一にするものである。

3、さて、そもそも予算とは、一会計年度における国の財政行為の準則、主として歳入歳出の予定準則を内容とし(実質的意味の予算)、国会の議決を経て定立される国法の一形式をいうのであつて(形式的意味の予算)、それは、単なる歳入歳出の見積表ではなく、政府の行為を規律する法規範である(清宮四郎・憲法I第三版二六九頁参照)。このことは、地方公共団体の収入支出はすべて歳入歳出として予算に編入しなければならない(地方自治法第二一〇条)とされる県の予算についても同様であり、それが法規範性を有することは争いなく認められよう。

仮に、本件訴訟において被告が敗訴すれば、抗告人において、既に適法に成立した予算の執行として、適法妥当に支出し、もはや抗告人に帰属すべきでないと考える金員の返還を、地方自治法第二〇八条所定の会計年度独立の原則に違背して受けることを余儀なくされ、かつ、執行済みの関係予算決算等会計処理の是正をしなければならず、場合によつては、会計事務職員、予算執行職員の弁償責任の追及や懲戒問題も生起することとなるのである。

右会計処理の是正は、具体的にいえば、歳出の誤払い又は過渡しとなつた金額の返納として、収入の手続の例により、これを当該支出した経費に戻入しなければならないのである(地方自治法施行令一五九条)。

右に「収入の手続の例による」とは、調定による戻入の決定をし、納入の通知に相当する戻入の通知をして誤払金を戻入することをいうのであり、抗告人は、法律上新たな義務を負担することとなるのである。

4、このように、一法形式である予算の執行について法律上の見直しを迫られるということは、法律による行政の原理からいつて、まさに抗告人の私法上または公法上の権利関係乃至地位に何らかの法律上の影響をおよぼす場合に該当するものであつて、これを事実上の主観的不利益にすぎないとするのは明らかに誤りである。

三、補助参加の利益についての判断(原決定理由二後段)について

1、抗告人の「被告が本訴訟で敗訴の場合、原告らが弁護士に支払うべき相当額の報酬を負担しなければならないことになる」との補助参加の利益についての主張に対しては、原決定は、「右弁護士報酬の負担は、地方自治法第二四二条の二第七項の規定に基づき認められるものであつて、このことをもつて補助参加の利益があるものということもできない」とするが、その理由は必ずしも明らかではない。

2、およそ、権利義務は、契約乃至法律の規定によつて生じるものである。もし、原決定が、法律の規定に基づいて認められる当然の結果であるから法律上の利害関係がないというのであれば、いつたい法律上の利害関係がいかなる場合に認められるというのか全く理解に苦しむことである。

仮に、地方自治法第二四二条の二第七項の規定が設けられた趣旨が、原決定の述べる如く、「住民訴訟が住民の自己の個人的利益のためや地方公共団体そのものの利益のためではなく、専ら右訴訟を提起した原告らを含む利益のためになされるものであるところから、訴訟に要した費用のすべてを原告らたる住民に負担させるのは適当でなく、右訴訟によつて利益を受ける当該地方公共団体が相当と認められる弁護士報酬額を原告に支払うものとすることが衡平の理念に合致するものと考えられた」ことにあるとしても、参加人の法律上の利害関係の有無の判断には何ら関係のないことである。

仮に原告勝訴の場合には、法律上相当の弁護士報酬の支払義務が生じるのであるから、まさに参加人には法律上の利害関係があるといえるのであり、又住民全体の公共の利益のためとはいえ、仮に本件代位請求訴訟が勝訴した場合にもたらす地方公共団体への経済的利益(本件では二万七千円)と報酬との金額いかんによつては、必ずしも利益を受けるとはいえず、さらには相当額の認定についての新たな争訟をひき起こす可能性すら否定できないのである。

四、補助参加の利益についての追加主張

1、地方公共団体は、統治権を行使する団体であるが、私法関係については、社会の構成単位として私人と同様な地位に立つものであつて、民法四三条所定の権利能力を有し、私法の適用を受けて契約その他の行為をすることができる。

例えば、東京高裁昭和四一年一月三一日判決(高裁民集一九巻一号七頁)は、法人は個人と同様一般社会の構成単位をなすものであるから、定款の定めいかんに拘わらず、寺社の祭礼のための寄附をするのは、会社の目的の範囲内の行為に属するものであると判示している(同上一五頁三行参照)(この見解は上告審の最高裁昭和四五年六月二四日大法廷判決によつて支持されている)。

又政府は、一貫して、民間団体(当然のことながら宗教法人も含まれる)が慰霊祭などを行うにあたつて、地方公共団体として敬弔の意を表示するため、玉串料、神饌等を贈ることは差支えないという見解を示している(昭和二六年九月一〇日文宗第五一号文部次官通達、同年九月二八日文宗第五二号文部大臣官房宗務課長代理通達、第七五回国会参議院予算委員会における総理大臣、文部大臣、法制局長官の各発言等)。

更に、最高裁昭和五二年七月一三日大法廷判決(最高民集三一巻四号五三三頁)は、憲法二〇条は国が宗教と一切のかかわり合いを持つことを禁止したものではなくて、特定の宗教を援助、奨励する等の目的をもち、そのような効果をもたらすような行為のみを禁止するものであるという解釈を示したが、右判旨に照らして、地方公共団体が戦没者に対する敬弔の表れとして玉串料等を奉献することは同条に違反するものではないことが明らかである。

2、本件訴訟は、行政事件訴訟法四三条三項に該当する民衆訴訟であるから、当事者訴訟の規定が準用される。同法四一条一項の規定により、当事者訴訟には同法三三条一項の規定が準用されるから、結局同条同項は本件訴訟に準用されるのである。

右三三条一項は、「取消判決は、その事件について、当事者たる行政庁その他の関係行政庁を拘束する」旨の規定であるが、本件訴訟にあつては、「行政庁その他の関係行政庁」を「栃木県その他の関係地方公共団体」と読み替えて適用されることとなる。

右三三条一項の規定は、判決で取り消された行政行為と同一の理由に基づく同一内容の行政行為の繰り返しを禁止する法意である(最高裁昭和三〇年九月一三日第三小法廷判決、最高民集九巻一〇号一二六二頁)。すなわち、抗告人は判決理由として示される判断によつて拘束されることとなるのであるが、請求原因として本件公金の支出が憲法二〇条及び八九条に違反する違法な支出であると主張する原告らの請求が認容された場合には、宗教法人靖国神社はもちろん、他の宗教法人に対する玉串料及び献燈料を県費から支出することができなくなる筋合である。

3、右の次第で、原告の請求が認容された場合には、抗告人は、前述の権利能力が違法に制限されることとなるのであるから、訴訟の結果につき利害関係を有する第三者に該当する。

五、東京高裁昭和五六年七月八日決定(行政例集三二巻七号一〇一七頁)は、本件と同様の事案について、申立人は、本件訴訟の結果につき民訴法六四条の利害関係を有する第三者に該当し、参加の利益がある旨を判示しており、原決定は右先例に反するものである。

六、なお、本件代位訴訟において、地方公共団体が被告に補助参加することが訴訟構造上問題ないことは、参加申立書に記載した通りである(前掲東高判決)。

七、以上述べたように、抗告人としては、本件訴訟の結果につき民事訴訟法六四条の利害関係を有する第三者に該当するものというべく、本件参加の利益があるのであつて、原決定は取り消されるべきである。

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